第1章 story 1 “戦場に咲く一輪の華”
父、昌幸と共に乗り越えた戦。
血と泥の臭い。
目を覆いたくなるような光景。
幼い頃から戦場に出ている幸村にはごく当たり前の事だった。
『この戦の先に泰平の世があるなら』 その一心で幸村は日々戦い抜いていた。
真田幸村、15歳の時だった。
「……?っ父上…!!」
幸村の見据えた先にいたのはこの荒れきった戦場には似つかわしくない、一人の少女。
少女の目線の先にはぐったりと倒れている兵士の姿があった。
馬を降りた幸村がそっと近付くと、聞こえてきた消えてしまいそうな小さな声。
「……………あ…兄上……」
幸村の気配に気付き振り返った少女と幸村の目が合う。
「あのっ……!」
色白な肌に漆黒の瞳、あまりにも可憐過ぎる少女に幸村は声を掛けずにいられなかった。
少女は怯えたように小さく震えていた。
幸村はそんな少女の前にしゃがみ込み、安心させるように微笑んだ。
「怖がらなくて大丈夫です、私と一緒に行きましょう」
幸村の笑った顔を見て少女は肩の力を抜いたようだった。
「大丈夫」と言う彼の言葉に救われた気さえしていた。
幸村の差し出した手に少女はそっと触れた。
とても温かい手だった。
幸村は自分の馬に少女を乗せると少女の後ろに跨がり馬を走らせた。
自分の腕の中でなお震える少女の肩を幸村はそっと抱いた。
「もう大丈夫ですから…そうだ、これを」
「………?」
「怖いもの、見なくて済むように…被っていてください」
幸村は少女に自分の羽織をかけた。
「…………ありがとう、ございます……」
「……はい!」
少女が口を開いてくれたことが幸村は純粋に嬉しかった。
「某は真田幸村と申します、あの、貴女の名を聞いても良いでしょうか……」
少女の様子を伺うように幸村は少し遠慮がちに尋ねた。