• テキストサイズ

戦国四重奏 (戦国無双3)

第3章 story3“新しい出逢い”


その声に彩芽はびくりと肩を震わせた。

振り返っては、駄目。
決めた覚悟が揺らいでしまうから。


「…呼んでいるが……良いのか?」

清正が彩芽の顔を覗き込むと彩芽の目には今にも零れ落ちそうな程に涙が溜まっていた。

「……っ!!」

それを見た清正は返事を待たずに彩芽を馬へと引き上げた。


その様子を見ていた彩芽を呼んだ声の主、幸村は目を見開いた。

「!!?」

「…彩芽は此処を出る、昌幸公の意思だ。何も言うな」

幸村から隠すように清正は彩芽を抱き寄せ、そう言い放った。

「今、何と……?」

「何も言うなと言った」

自分以外の男が彩芽の肩を抱いている、その事だけで幸村は嫉妬の怒りが込み上げてきていた。
それに加えてこの男は何と言った?

「彩芽が………此処を出る…?」

「…なんだ、聞こえてるじゃねぇか」

清正は手綱を引き、馬の向きを変える。

「間違っても追ってくるな」

「しかし!」

「何度も言わせるな、これは昌幸公の意思だ」


それだけ言い残すと清正は馬を走らせた。
一人その場に残された幸村は彩芽に向かって叫んだ。

「彩芽殿!!…彩芽殿!!」

何も聞いていない。
こんな離れ方、納得できる筈がない。

「彩芽殿!!!」

幾ら叫んでも彩芽を乗せた馬は小さく遠ざかっていくばかりだった。


ずっと自分が守っていくと決めていた。
武功を上げたら、想いを告げるつもりだった。

「彩芽殿!!…………………彩芽…っ…」


幸村は馬が見えなくなっても尚、馬の走って行った方をずっと見つめていた。




「良かったのか…?」

「…………」


清正は馬を走らせながら彩芽に尋ねた。

「別れを告げていなかったのか……?」


その瞬間彩芽は張り詰めていた糸が切れ、大粒の涙を流した。

それに気付いた清正は馬を止める。


「別れを……別れを告げてしまうと…もう二度と、会えないような気がして…言えませんでした……」

「……」

「…会わずに出て行くつもりだったのに……あんな……」


顔を見なくてもわかる。
幸村はきっと悲しい顔をしていた。

/ 105ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp