第3章 story3“新しい出逢い”
「…あぁ」
短くそう返事をした清正を確認すると彩芽はまた下を向いた。
「昌幸公、すぐに立っても…?」
「加藤殿がお疲れでなければ構いませぬが……彩芽は良いか?」
「……っ!…か、まいません…荷物は既にまとめております」
一瞬言葉を詰まらせたが、彩芽はあくまでも平静を装っていた。
気を抜いてしまうと、駄目だ。
心が乱れて涙が出てしまう。
彩芽は膝の上の手をぎゅっと握り締めた。
「……」
清正はそんな彩芽の様子を目を細めて見ていた。
「…彩芽、部屋の荷物を運べ。日のある内に出る」
「…はい………」
彩芽は顔を上げ昌幸に向かい、最後の挨拶を済ませると自室へ荷物を取りに向かった。
「…加藤殿、彩芽の事を何卒宜しくお願い致します……」
「…はい」
自室へ戻った彩芽はまとめて部屋の角に置いてあった荷物を抱えた。
ふと、思い出したようにひとつの風呂敷をほどく。
返せずにいた幸村の羽織を抱き締めて彩芽はそっと呟いた。
「さよならも言わずにいなくなる事…許してね……」
抱き締めた羽織からは微かに幸村の香りがした。
いつも、側にいてくれた。
いつも、守っていてくれた。
兄の様であり、友の様であり、
彩芽にとって……太陽の様であった幸村。
「ごめんね……」
そう呟くと、彩芽はまた風呂敷に羽織を包んだ。
昌幸の部屋を出た清正は彩芽が掃除をしていた門の前で彩芽が来るのを待っていた。
「清正様、すみません…お待たせ致しました!」
彩芽は小走りで清正の元へと駆け寄る。
「いや、気にするな。…荷物はそれで全部か?」
「はい」
清正は彩芽から荷物を受け取り馬に乗せた。
そして自分も馬に跨がり、彩芽な手を差し伸べる。
彩芽が清正の手を取ろうとした時、声が聞こえた。
「彩芽殿…?」
会いたくなかった、でも本当は一番会いたかった人の声。