第7章 六章「桜舞う樹の下でも、いつもどおり」
すると女性は「ごめんごめん」と快活な笑いで謝った。
「私最近結婚してこの辺に住み始めたんだけど、今まで料理とかしてこなかったからさー、なんかわけわかんなくて」
「そうなんだ。また見かけたら声かけてよ。俺でよければアドバイスくらいなら出来るから」
「本当に!?助かるー!私、新田真希!君は?」
「俺は、赤島泉だよ」
「泉君ね!よろしく!」
「こちらこそ」
「それにしてもイケメンだねぇ。女の人みたいに綺麗だし」
「そんな事ないよ」
そうして話しながら二人で買い物をして回り、出口のところで別れた。
初めての出会いに、少しだけ嬉しい気分になる。
帰ってくると、ぶいを抱っこしたイノッチがお出迎えしてくれた。
「おかえりー」
「ただいま。仕事終わったの?」
「うん!」
「そっか。これから明日のお弁当とか今日の夕飯とか作っちゃうから、ぶいの事見ててくれる?」
「りょっかーい!」
リビングにはテレビの音と、野菜を刻む音、イノッチとぶいが戯れる音が流れている。
料理に集中していると、急に後ろからイノッチに抱きすくめられ、首筋にキスをされた。
「ひゃっ、もー、イノッチ。危ない!」
「はいはいー。料理に集中してくださいねー」
「は?ちょ…っと!やだ…」
イノッチの手が私の服の中に侵入し、腹をさする。そのまま指を下の方へ滑らせた。
「イノッチってば…!」
「んー?ここ?」
「そうじゃなくって…んんっ…」
「可愛い声だねぇ」
「うるさい…あーっ!!一旦落ち着くか死ぬか選べぇ!!!!」
「はい、落ち着きます。落ち着くのがいいと思います」
包丁を掲げて怒鳴る私に、イノッチが土下座の体勢で謝る。やっと構ってくる事をやめまたしてもぶいと遊ぶイノッチに呆れながらも、私はする事を済ませた。
そして更に翌日、私たちは家を出る準備をしていた。
「お弁当持ったー?」
「持ったよー」
「ぶいを入れるカゴはー?」
「バッチリー」
「泉、男装はー?」
「おっけー」
そんな確認のし合いを交わし、早速花見に出掛ける。
そこそこ歩いたところに、桜満開の絶景スポットがあるのだ。そんなに知られていないところなので、人も少ない。