第6章 五章「手作りチョコレートと言い張るなら、カカオから」
「やっぱり、この続きは、だめだよな」
「…うん。ごめんね」
「謝るなよ。無理強いはしたくない。いつか絶対に泉を俺のにするから」
「反応に困るよー…」
「あー。そういうの、可愛すぎる。もう一回」
その後お互いが眠りにつくまで、私たちは唇が痛くなるほどキスをした。
翌日、早朝。私たちはみんな玄関にいる。
「じゃあ、行ってくる」
「誰か来てもきちんと無事かどうか確認してから出ること!」
「戸締りはしっかり!」
「火には気をつけて!」
「男装はぬかりなく!」
「なにかあったらすぐ警察に相談!」
「夜のオカズは俺で!」
「おい最後」
メンバーみんなが一言ずつお母さんのように注意をしてくれる。最後の剛のはまあどうでもいいが。
私はわかったと首肯すると、手を振ってみんなを見送り、二度寝した。
それから三日が経った。
階段を降りてリビングに行っても誰もいない。
部屋にも、誰もいない。
いつもの明るい笑い声が聞こえない。
一人はこんなに寂しいものだっただろうか。いつの間にか、私は家で一人ではないという幸せに慣れてしまっていたようだ。
そんな時、電話が鳴る。また非通知だ。
「はい」
「……」
「どうでもいいですけど」
「……」
「この間Gパンのチャック開けたままで電車乗ってしまって恥ずかしかったんですよね」
「本当にどうでもいい!!」
こいついつも一方的につっこんで一方的に切ってくるな…
すると、また電話が鳴った。
「だから!ファスナーは今度から閉めたか確認しますって!!」
「…え、あ、うん。そうしてくれると助かるかな」
「あれ?まーくん?」
「誰だと思ったんだよ…そっちは変わりないか?」
「うん、大丈夫だよ」
なんだか随分久しぶりにまーくんの声を聞いた気がして、妙に落ち着く。
「明後日には帰るから、寂しがって泣かないでよー!」
「おい健、勝手に携帯取るな」
「泣かないですー。そっちは?順調?」
「うん!順調!あ、そろそろ行かなきゃ。またね!」
「うん、頑張ってね」
短い通話だったが、さっきのいたずら電話などでモヤモヤしていた気持ちが少し霧散された。
そしてみんなが帰ってくる前日の十三日、私はキッチンで仁王立ちしている。バレンタインのチョコレートを作るのだ。
もちろん、チョコレートを作ると言っても、カカオから栽培するわけではない。