第5章 四章 「祝うと呪うは似ている(森田編)」
それから剛が家を空ける度、私達は打ち合わせと練習に励んだのだが、この台本を主に考えたのはイノッチである。
練習していて思う。
これ成功するのか、と。
そして、迎えた二月二十日。
16:30 健ちゃんが剛を外に連れ出す。
「剛、ちょっと外出ない?」
「やだよ、寒いもん」
「近所の公園にめっちゃ美人な変質者が出るんだって」
「何やってるんだよ健、早く行くぞ」
「え?あ、うん…」
大嘘をわずか二秒で受け入れた剛に、さすがの健ちゃんも若干引いている。
周りの何食わぬ顔で各々の事をしている私達も引いている。
16:40 残りのメンバーでリビングの準備を始める
「なんかこれドキドキするねー」
「確かに。こんなに盛大に祝ったこととかないからなぁ」
「リーダーにしてはいい案出したよね」
「井ノ原は一言多いんだよ」
リビングが飾り付けられていく。
ちなみに料理は私とまーくんで豪勢なものを既に午前中に作成済みだ。
剛が冷蔵庫を開けようとすると、
「水が飲みたいの!?」
「え、いや、牛乳…」
「分かった!私が取るから!剛は座ってて!」
「別にいいよ」
「いーいーかーら!」
「…じゃあ後アイス」
「はいよ!」
「後、チーズ」
「よしきた!」
「後…泉」
「…それは無理…」
「冗談だよ!マジトーンやめろよ!!」
というようなやり取りをした。
17:20 博君が健ちゃんに電話をかける
「もしもーし?」
「健!?大変なんだよ、泉ちゃんが倒れちゃって!」
「えぇ!?泉が!?」
「おい、泉がどうしたんだよ」
二人は喫茶店にいた。「美人な変質者」に遭遇する事ができなかった二人は、健ちゃんの提案で寒いから喫茶店に入ろうという事になったらしい。
剛が健ちゃんの演技と私の名前が出たことで目の色を変えた。
携帯電話をポケットにしまった健ちゃんは、事の内容を剛に話す。
「よく分からないんだけど、泉が急に倒れたんだって。今泉の部屋でみんなが看病してるみたい」
さりげなくリビングにはいない、つまりリビングには入るな、という事を伝えている。
剛はコートを羽織ると、健ちゃんを置いて駆け出した。