第1章 序章「幼馴染に頼まれてこういうことになった」
「……さて」
一通り挨拶も終わり、リビングに七人が集まった。
これだけ有名な芸能人と同じテーブルを囲んでいるというのに、私は緊張のかけらも感じていなかった。
私にしてみれば、仲の良い男友達といる。そういう感じだ。
「ここで、泉に一つお願いがあります」
そう人差し指を立てて、まーくんが言った。
「なんでしょうか」
「きっと泉もファンに見つかったら大変だ!どうしよう!とりあえず火を消してテーブルの下に隠れなきゃ!と思ってると思うんだけど」
「地震か!!思ってねぇよ!!」
「あはは、冗談冗談。まぁ、とにかく、ファンにバレたらまずい事になると思ってるよな?」
「それはまぁねぇ」
「そこで!」
イノッチが急に声を張ったかと思うと、何やら紙袋をガサガサと漁り始めた。
私はもうここまで来ると、なにも驚かないだろう、と思っていたのだが……
「じゃーん」
「……?」
イノッチが幼稚な効果音と共に取り出したのは、ウィッグと、男物の服が数点だった。
「……これでなにをしろと?」
「あのな、泉に男装してもらいたいんだ」
「……」
「はい、そのこいつらトチ狂ってやがるみたいな顔禁止ね」
あの准君がなんか頭のおかしい事を言っている。
「ななななななんで!?」
「いや、女の子と暮らしてるのはまずくても、男の子なら問題ないだろ?」
まーくんの言葉に、メンバー全員がうんうん、と頷く。なんでここでこんなに団結力発揮してんのこいつら。
「常に男装しなきゃいけないわけ!?」
「うん!!!」
「元気のいい返事ありがとよ!!!」
遠慮なく剛を殴る。
とにかく、彼らの言い分としては、男装をし男として彼らと暮らせば、例えばファンが出てきても「女と住んでるの!?」というパニックや大騒ぎにはならないだろうという事らしい。
殴られても元気な剛が歯をニッと出して笑い、
「ほら!泉って中性的な顔しているし、胸も控えめだし!」
とのたまったので、股間を蹴った。
剛が「使い物にならなくなったらどうすんの…」とのたうちまわっているうちに、メンバーが「とりあえず着替えてみてよ」とウィッグと服を渡してきた。
「本気なの?」
「うん」
私は大きくため息をつくと、リビングを出、一室に入るとそこで着替えた。
…私なにやってんだろ……