第2章 一章「朝の日課はウィッグを被る事です」
今夜は少し仕事が長引いたな、と私は帰路を急いでいた。
外は随分暗い。
「おーい」
「ん?」
呼ばれた気がしたので振り返ると、まーくんが手を振りながら走ってくるところだ。私は歩く足を止め、まーくんが辿り着くまで待つ。
ものの数十秒でこちらに着くと、まーくんは私の頭に手を置いた。
「すっげー嬉しいな」
「なにが?」
「偶然でもあいつらより早く泉に会えた事」
ドキッと胸が高鳴る。この人はどうしてこうも簡単に女が喜ぶ事を言えるんだろう。言い慣れてるのか?
「私以外に何人いるのよっ!!!」
「あ!?」
どうやらまーくんは夕飯の買い物に向かう途中だったらしいので、私もそのまま付き合う事にした。
「あ、そういえば准君がカレー食べたいって言ってたなー」
「じゃあハヤシライスにしよう」
「なんで」
まーくんがカートを押し、私が食材を入れていく。
なんだか…
「夫婦みたいだな」
「おうふっ」
「奇声あげないでな?」
まーくんは本当に心が読めるのではないかと思うくらい、同じ事を感じたり、私の胸中の事を口にする。
「荷物持つよ」
「いいよ、軽いし。そんな事より、手繋ごう」
「…ふっ」
「ん?」
「いや、昨日イノッチにも同じ事言われたから」
「なんだよー。二番煎じかー」
まーくんが髪をくしゃくしゃっといじる。その悔しそうな顔が可愛らしい。私はまーくんの手を取ると、歩き出した。
「ほら、それでも私とまーくんが手を繋ぐのは初めてでしょ。行こ」
「…可愛いな、本当」
「なんか言ったー?」
「なんにも」
そうして私たちは手を繋いで家に帰った。