第2章 一章「朝の日課はウィッグを被る事です」
家に着くと、既に剛は帰ってきていたらしく、今度行われる舞台の台本を真剣に読んでいた。
「剛、お待たせ」
「……」
「剛?」
「……」
相当真剣なんだな、こいつは結構プロ根性あるからなー
なんてな!!!
「イケメンただいま」
「おかえり!」
ほら見たことか。
「お腹すいたー」
「はいはい。今作るからねー」
「俺も手伝う!」
珍しい事続きだ。でも剛に包丁を握らせるのはやめよう。
冷蔵庫をガサガサしている剛が、「お?」と声をあげたのでどうしたのか聞くと、剛はニヤニヤしながら、乳製品を取り出した。
「これすっげーエロくね!?なまちちだって!」
「せいにゅうね」
「知ってたし!知ってたしぃ!!!」
「子供か」
と、なんだかんだで夕食も終わり、剛と食器の片付け。イノッチはドラマのセリフを覚えるのに忙しいらしい。
「…なあ」
「んー?」
「健にされたキスって、マジでファーストキスなの?」
「そうだよー。思い出させないでよー」
「違うよ」
剛が珍しくも真剣な声を発したので、私はつい身構えてしまう。
剛は少し寂しそうな顔をしながら、ぐっと近づいてくる。
「俺がファーストキスの相手だからな」
「…え」
「お前が小学生の時、俺らキスしたろ?…こうやって」
後頭部を押され、剛と唇が重なる。
その瞬間、確かに剛とキスをした事を思い出した。
私が剛の家に遊びに行った時、されたのだった。
「別に再現しなくてもいいでしょー!!」
「いやまぁ。したかっただけだし」
「殺されたくなかったら死んで!?」
「 むりなんどい言うなよ!…ん?」
「無理難題、ね。あんたとりあえず日本語の勉強しなさい」
剛は決して褒めていないのに右手をまっすぐ上げて返事をした。