第2章 一章「朝の日課はウィッグを被る事です」
博君との会話を楽しんでいる最中、仕事用の携帯電話が鳴った。メールを受信したらしい。
「ちょっとごめんね」
確認すると、依頼の内容は「彼氏が浮気をしているかもしれないので、調査をしていただけますか?日にちはあまり遅すぎなければ問いません」との事、そして二件目のメールには、恋人のプロフィールが書かれていたり、写メが添付されていた。
「仕事入ったみたいだね」
「うん。ごめんね?あまり長居できなくて。あ、パスタ代いくら?」
「こういう時は女の子は出さなくていいんだよ。行っておいでよ」
「うー…!今度なにか奢る!ごめんね!行ってきます!」
バッグを掴むと、私は足早に店を出た。
結局、この日の収穫は、恋人を発見する、という事だけだった。ふと上を見ると、偶然スクリーンにV6がでかでかと映し出された。そういえば、新曲が出るって言ってたっけ。
「お姉さん、一人?」
えー……誰だよ……でもこの声聞き覚えがある。それに、私の事をお姉さんって呼んだよね。男装してるはずなのに。
つまり……
「イノッチ、V6がナンパはまずいんじゃないの」
「ええ!よくわかったね」
「私の推理力があればね」
「俺だって推理力すごいよ!なんたって現場で見た目は大人!頭脳は赤ちゃん!って褒められるもん」
「それ褒めてねぇよ?」
イノッチも仕事が終わったところのようなので、私たちは一緒に帰路についた。
「あ、今日はイノッチと剛しか夜いないんだよね。なにか食べたいものある?」
「泉」
「はいはい言うと思ったわ馬鹿」
今夜は暑いので、あっさりとしたメニューにした。
イノッチが袋を持ってくれている中、二人で色々話をした。
「ねぇ、泉」
「ん?」
「手繋いでいいかな」
「え…うん、いいけど…」
そう答えると、イノッチは顔を輝かせて、ぎゅっと握ってきた。
男性と手を繋ぐ機会などなかった私は、相手がイノッチなのに緊張してしまう。
…イノッチに失礼だったね、今の。