第2章 一章「朝の日課はウィッグを被る事です」
食器の片付けが終わり、手をすすいでいると突然後ろから准君に抱きしめられた。
甘い香りとたくましい腕に、胸が高鳴るのが分かる。
「ど、どしたの?いきなり……」
「あかん?なんやめっちゃ抱きしめたくなってんけど」
「あれ、関西弁」
「泉の前ならほんまの自分出せんねん」
はぁ……と短い息を吐き出すと、准君は私の首元に顔を埋めた。今まで全く意識していなかったのに、心臓がしめつけられるようにドキドキしている。
「准くっ……」
「なーーんてな!冗談だよ、冗談」
「この野郎……」
「顔真っ赤」
意地悪く笑いながら、私の顔を両手で包むようにして、覗き込んでくる。
このイケメンなにをやらかすんだ畜生。
その後、准君はジムに寄ってから行く、ということで家を出た。私はというと、特に依頼のメールなども入っていないので、掃除や洗濯をする事にした。
お昼頃、なにを食べようか迷っていると、携帯電話が鳴った。博君からだ、珍しい。
「ほいほーい」
「やぁ。もうお昼ご飯食べた?」
「ううん。これからどうしようか迷ってたところ」
「そっか。よかった。今現場の近くで美味しそうなパスタのお店見つけてさ。よかったら一緒にどうかなぁって思ったんだけど」
「本当?行く行くー」
「あ」
「大丈夫、ちゃんと男装していくから」
「はは、お見通しだね」
しっかりと男装を済ませた私は、家を出た。
博君のおメガネにかなうのだから、きっと美味しいだろうなー楽しみだ。
「おいしそー!」
「でしょ?」
ジェノベーゼを食べたのだが、流石、美味しい。
舌鼓を打っていると、博君がこちらを見て嬉しそうに微笑んでる顔が目に入った。
「どしたの?」
「いや、泉ちゃんが幸せそうだと俺も嬉しいなぁって」
「な、なに言ってんの……」
博君も結構どストレートでくるね。
「そんな泉ちゃんのファーストキスを奪った健をその内殺すけどね」
「爽やかに物騒な事言うなよ」