HQ‼︎ Language of love《短編集》R18
第9章 真っ赤な恋の色《夜久 衛輔》
今日のヤクさんは友達とは一緒におらず、一人だ。
何の曲、聞いてるのかな。
イヤホンで携帯音楽プレーヤーを聞いている彼。時折音楽に合わせて表情が綻ぶ。
ヤクさんを視界に留めながら過ごす電車での時間はとても幸せ。話したこともなければ相手は私のことなど知りもしないだろうけれど、これは恋なんだと思う。
幸せの時間も束の間で、私たちの降車駅に停車した。私も彼も、降りようとドアに向かう。
その時、ヤクさんの鞄のポケットから何かが落ちて車内の床に取り残された。
拾わなきゃ、
それは定期券だった。改札口で困っているだろうから、今から追いかければ間に合うだろう。
ホームの階段を駆け下りて、学生のひしめく改札口に急ぐと、鞄を探っているヤクさんを見つけた。
「やっ、ヤクさん!」
思わず叫ぶと彼が振り向いた。
不思議そうな顔をして私を見ている。それもそのはずで、知らない他校の女子から突然名前を呼ばれたら。私なら怖くて逃げる、絶対に。
どうしよう、思わず名前を呼んじゃった。何か、言わなきゃいけない。そうだ、定期券だ!