HQ‼︎ Language of love《短編集》R18
第23章 放課後の唄声 《白布 賢二郎》
けれども今日は、今日の俺は絶対に今からこの扉の向こうの音楽室へ入ろうと決めてきた。
俺のクラスは今日、音楽の授業でこの音楽室を使った。その際に、俺は机の中にペンケースを置いてきてしまったんだ。
別に特段ペンケースがなくて困るわけではないけど、この機会を逃したら、二度とこの扉を開ける勇気は芽生えないだろう。
「よし‥っ」
未だ鳴り響く歌声の中、まるで試合前のように気合いを入れて、いざ、扉を叩く。
「‥失礼しまーす、忘れ物を取りに来ました。邪魔してすみません」
「‥あ、はい」
‥俺は、一瞬で目を奪われた。
ピアノの前に座る彼女は、俺がその唄声から思い浮かべていた想像の人物そのものだった。
「どうかしたの‥?入っていいよ」
長い黒髪を耳に掛けながら、小さく頬笑む。
まるで音楽の女神様のようだ。
そんな彼女を見つめて、ドアから動けずにいた。
「あっ、その、すみません。唄声、綺麗だなと思ってて」
「本当?ありがとう、私声楽部なの、部員は私だけなんだけどね」
そうなんですか、と相槌をうちながら、机に向かいペンケースを無事取り出した。