第9章 wings
「燐光煌めけ艶斬!」
目の前の虚の周りで青い風が吹いてその大きな体を囲い、虚を包み込んだ大きな玉から目に見えない小さな粒になるまで収縮し、風も虚も消えた。
「霊圧抑えたままじゃ一体ずつが限界か…!」
一発で全員を倒せないことに少しじれったさを覚える。
もういちいち風を起こして攻撃するのは面倒だと思った私は、残りの虚を剣術で倒すことに決めた。
始解した艶斬を左手に持ち、飛びかかってきた虚を剣を振って真っ二つに割る。艶斬自体が軽く、おまけに全く切った感覚がしないため腕を振っているだけなのかと勘違いしてしまいそうだ。
(次は後ろと左!)
瞬歩を巧みに使いながら虚の位置を把握して斬りかかる。
スパンスパンという音が聞こえてきそうなほど気持ちよく虚が切れては消えていくのを、私は興奮のあまり楽しいと感じていた。
「雲雀!まずい!」
後方から飛んできた阿散井の声に振り向くと、私から少し離れた所に阿散井がいて、その更に三十メートルほど離れた所で二体の中級大虚が戯れている。
いや戯れているのではなく、共食いをしていた。
「今のうちに片付けるぞ!」
斬魄刀を持ち直した阿散井が攻撃体制でその虚の元へと突っ込んでいった。
しかし、片方の虚が捕食を終えるのが少しばかり早かった。
「恋次さん!」
阿散井を叩き落とそうと振り上げた虚の腕を間一髪で切り落とし、
体を捻って虚の頭上をとった阿散井を見届けて、私は鬼道を唱えた。
「破道の八十八…」
抑えていた霊圧を上げ、思いっきり手に込めた。
「飛竜撃賊雷天雷炮!」
掌から放たれた瞬間の爆発音がやけに心臓に響いて、
私は「まずい…」と鬼道を放ったことを後悔した。
黄色い光は虚はおろか、その先の街まで巻き込んで鬼道が通った所は見事に何もなくなってしまったのだ。