第8章 dramatically
「ど、どうですか?」
「…感じぬな。」
「そんなぁ…」
だいぶ前に出された焼菓子を片手に溜息をつく。
同じシチュエーションを繰り返してとうとう五回目。
私が今やっているのは、自分の霊圧を常に開放する練習。
霊圧を上げて、意識しなくてもその状態を保とうとするのだが、お菓子を食べることに気を取られるとすぐに消えてしまう。
「儂の霊圧は感じるか?」
「いいえ。」
やり場のない悔しさに焼菓子を口いっぱいに頬張った。
(…きっとこの美味しすぎるお菓子が悪いんだ…!)
焼菓子への八つ当たりも程々に、総隊長はある提案をした。
「今から儂が霊圧を上げる。何か感じたら言え。良いな?」
「ムグッ、…ん、ふ、はい!」
口の中を急いで空にして総隊長の様子を伺う。
きっと今この瞬間にも霊圧は上がり続けているはずなのに、
やっぱり何も感じない。
(私が霊圧を開放すれば、総隊長の霊圧を感じ取れるかな?)
そう思い少しだけ開放してみるも、空気の揺れすら感じなかった。
「…今日は終わるとするか。」
こんなに色々やってくれたのにな、と申し訳ない気持ちになりながら私は頷いた。
その次の日も、そのまた次の日も…そして数日経っても、
私が霊圧をうまく扱うことは出来なかった。
「どうすればいいのか…儂にも分からんの…。」
疲れた様子の総隊長と、糖分の摂りすぎで顔色の悪い私は今日もお菓子を使って修行中だった。
「…私、もうちょっと頑張りたいです!こんな、お菓子だけ食べて終わるなんて嫌です!」
「しかし、方法が見つからんのじゃ。」
「結果だけを求めた修行じゃなくて、結果を求めるための道のりを探す修行にしましょう!私、諦めませんから!」
どうしても、総隊長の期待に答えたかった。
そして総隊長に私の事を伝えた京楽にも。
真っ直ぐ総隊長を見る私の目と総隊長の目がバチッと合う。
「……本当に、母親に似ておるな…。」