第25章 last
「すげぇ奥まで来たな…。」
鬱蒼と生い茂る草木をうまく躱しながら阿近が呟く。
「あともうちょっとですよ。」
私は前へ前へ進んで入口の草を掻き分けた。
そして目の前に現れた光景に、阿近が息を呑んだのがわかった。
「まさか森の中にこんな場所があるとはな…。」
「どうですか?とても綺麗ですよね!」
「ああ。」
色彩豊かな花の香りに包まれると心が落ち着く。
まだ入口の所でキョロキョロする阿近と違い、私は花の間を通って中心の木を目指す。
「あ、雲雀…!」
生命の神秘を感じる場所に似合わない黒い死覇装が、阿近の不安を掻き立てたのかもしれない。静かに花の中に姿を晦ました雲雀が、このまま本当に消えてしまうんじゃないかと感じ、焦燥感に駆られるまま急いで後を追いかけて雲雀の手首を掴んだ。
「…?阿近さん、どうかしたんですか?」
「…あ、いや、何でもない…。」
一瞬だけ、阿近が珍しく取り乱しているように見えた私は不審に思いながらも、丘を目指して歩き続けた。
「近くで見るとやっぱりでかいな。」
「大きなキノコみたいですよね。」
「それ俺も思った。」
大きく広がった枝についた沢山の葉から漏れる光が、とても安らぎを与えてくれる。
私と阿近はしばらく木の幹に凭れて会話を楽しんだ。
これで、最後。阿近に会うのも、話をするのも最後。
空いてる日はいつも私に会いに来てくれた優しい人に、悲しい顔を見せないよう、私はずっと笑顔で応えた。