第5章 stand
「先生!」
「瀬越!?なぜここに来た!」
霊術院時代の山中先生が逃げろ、
とでも言うように震えた声で私を止めようとする。
瓦礫の上にへたれこんだ先生の額と脚からは血が流れ、
その前方には二体の虚が攻撃体制に入っていた。
急いで地面に降り立ち、
先生に治癒の結界を張ってこちらも体制を整え、
霊圧を今までより高めに上げる。
それだけでも大気の揺れを感じた人は多数居たようだ。
沢山の霊圧がこちらに向かってきている。
しかし今は時間が無い。
一瞬で終わらせるため詠唱破棄で霊力をたっぷり注ぎ込むと、
巨大な紅い玉が見事に現れた。
「瀬越、お前……!」
私の実力を知らない先生は後ろでひたすら目を丸くしていた。
だがこれはまだ序の口で本気とは程遠い。
が、力を出していなくてもこれができるのは私だけ。
「破道の三十一、赤火砲!」
直径三メートルともあろう密度の高い玉は、
目にも留まらぬ速さで飛んでいき、二体全てを呑み込んで
爆音を瀞霊廷中に響かせた。
一仕事が終わって背伸びをしながら後ろを向くと、
先生の身体からの流血は無くなり傷口も綺麗に回復していたが、
開ききった目と口は塞がらないのか間抜けな顔で私の顔を眺めていた。
「あの…先生、どうかしましたか?」
「………」
「あの~…」
「おい、どういう事か説明して貰おうか。」
突然後ろから声が聞こえたので慌てて振り返る。
しかし誰もいない。
「あれ?空耳かな…?」
また先生の方へ向き直ろうとした時、
苛立った様な声が聞こえてきた。
「下だ馬鹿野郎。」
「あ、いた。」
「あ、いた。じゃねえだろ!
初対面でどんだけ失礼なんだよ!」
「あ、ほんとだ。誰?」
「てめぇ…上等だ今すぐ叩き切ってやる。」
「こら、子供がそんな事言っちゃダメでしょ。」
「俺は子供じゃねぇ!十番隊隊長の日番谷冬獅郎だ!」
(冬獅郎って、お母さんが言ってた人かな!?)
お母さん曰く、白髪で綺麗な目をした可愛い男の子だそうだが、
目線の先には額に青筋の浮いた無愛想な子供がこちらを見上げながら睨んでいる。
仕方なく目を合わせるためにしゃがむと、
さっきまで怒りのオーラを出していた表情が一気に緩んだ。
私の顔面をまじまじと見て大きな目を更に大きく開け、
何かに憑りつかれた様に固まっていた。