第21章 please
歪んだ感情。悲観的な自尊心。
それらを彩李は抑えきれずに暴走してしまった。
だけど元々の感情は誰にでもある美しいもの。
あの人のようになりたい。
それが人を狂わせるなんて誰が思うのだろうか。
いつの間にか現実世界へと引き戻された私はしばらくの間呆然としていた。
(知らない内に…私が、彩李を苦しめてた…?
ずっと、気付かないで…?…どうしよう…私が、私のせいで…。)
全身が震え出して平常心を保てなくなる。
今にも力が抜けそうな私の手を、彩李が更に強く握った。
「っ!?彩李!」
訳もわからないまま顔を覗き込んだ私に彩李は静かに微笑んで、蚊の鳴くような、か細く掠れた声を振り絞った。
「ずっとね、雲雀…っに、憧、れ、てたの…。
だ、けど…いつの間に、かね、雲雀に、嫉妬して、憎むように…なったの。…ごめ、んね…?本当に、ごめんなさいっ…。」
辛そうに涙を流す彩李を見て、いてもたってもいられなくなった私は彩李を強く胸に抱きしめた。
「ううん…私こそあなたの苦しみに気付いてあげられなくてごめんなさい…!」
「なん、で…雲雀は、そんなに優しいの、かな…。」
彩李は目を細めて私を見つめる。
いつもそうだった。
雲雀はいつも自分よりも前を行って、いつも自分に夢を与えてくれた。
…雲雀はいつだって、彩李の理想だった。