第21章 please
どうして一人だけ生き残りがいたのか、理由はわかったのだが、私は悲惨すぎる光景を直視できなかった。
ファントム達が屋敷に侵入した途端、耳を裂くような悲鳴が飛び交い、明らかに人の体が潰れる音が聴こえてきて、私はギュッと目を瞑った。
どれぐらいそうしていたのだろうか。いつの間にか静かになった私の家を、彩李は眉一つ動かさずに見ている。
そして私は、夔竜の門の前に集まる過去の零番隊の姿を捉えた。
(あ…ダメ…入っちゃダメ…!)
涙が溜まり、ぼやける目で過去の私が家に入ったのを見届けた瞬間、私は耐えられずに耳を塞いで目を強く瞑り、しゃがみこんだ。
何度この光景を思い出しても、酷い頭痛に襲われては息が切れるのに、こんなものを見れるわけが無い。
(お願い早く別のに変わって!嫌だ見たくない…!)
ふと、ある変化に気付いて恐る恐る目を開けると、私の願いが通じたのか別の記憶に変わっていた。
再び彩李の部屋の景色が広がる。
「お前はなんてことをしてくれたんだ!もしこれが誰かにバレたら、彰束は終わりだぞ!」
「夔竜の存在が邪魔なんでしょ?だから消したのに何がいけないの?」
「彰束の娘が夔竜を殺したと他の王族にでもバレてみろ!彰束は霊王によって罰せられるんだぞ!王族の地位を奪われるだけじゃない、彰束の存在そのものを消されるかもしれないんだぞ!…ああ…終わりだ…とんだ失態をしでかしてくれたな…。」
部屋の中心で彩李と言い合っていた父が、魂の抜けた顔で頭を抱えて項垂れた。