第21章 please
「あたしは、生まれてこない方が良かったの…?」
「お嬢様…決してそんなことはありません。」
ある一室で、彩李と、最初に見た記憶で彩李の父と話をしていた老人が話している。
「どうしたらお父様に愛されるの?」
十歳前後の彩李が感情の無い顔で問いかける。
「それは…。」
「お父様はいつも、雲雀の話を聞いてくるの。あたしの話はさせてくれないの。雲雀はどうしているんだって。いつも…。」
(この時期だと私は瀞霊廷に行った後…。)
「お父様は決して、お嬢様を気にかけていないということではありませんよ。」
「だったらどうして、あたしを殴るの?あたしを罵るの?雲雀は優秀なのに、お前はクズだって。ちゃんと夔竜に助けてもらえるよういい子にしてるのかって。あたしは、何のために生きてるの?」
老人は何も言わず、彩李を見つめる。
「お母様は、お父様はいい人だって言って死んだけど、本当なの?」
そしてまた、視界が移り変わった。
「雲雀を超えれば…あたしが彰束の地位を上げれば…。」
技術開発局の実験室のような部屋で、彩李が円筒型の水槽を見上げている。ブクブクと、液体が動く音があちこちでしている。
不気味なガスが足元に立ち込め、彩李は生気を失った顔で壁の機械をいじった。
(あれは、ファントム!)
円筒の水槽の中に見えた青い影。
彩李の元に行こうとした私の視界の端に、台の上に置かれたある本が映る。