第21章 please
広い部屋の角で膝を抱えて泣き声を殺す彩李をよく見ると、服から露出した足や腕に青アザや出血の後が見られた。
怪我をした、と言うよりはぶたれた、の方が適切であろう。
なら誰が…と考えている間にドアの開く音が聞こえてきた。
高価で清楚な衣服を身に纏った男性が、一直線に彩李へと歩み寄る。
それに気付いた彩李は泣き腫らした眼で鋭く睨み付け、怒号を浴びせる。
「私が何をしたって言うの!!!来ないでっ!!!!!!」
「静かにしなさい!大人しく言いなりになっていれば良いものを!」
(この声は、さっきの人…彩李の…)
「私はお父さんの道具じゃない!」
「価値の無いゴミが騒ぐな!」
激しい言い争いで頭に血が昇った彩李の父親が彩李の胸ぐらを掴み、手を振り降ろす。
バチィイン!!!
痛々しい音が部屋中に鳴り響く程、その平手打ちは威力が凄かった。
彩李の左頬は真っ赤に腫れ上がり、口内と唇は衝撃で切れて血が流れる。それだけでも十分苦痛なのに、連続で交互に頬を力任せに引っ叩く、正気の沙汰とは思えない光景に堪えきれず、私は飛び出していた。
しかし、これは記憶。彩李の頭の中に残っている体験。
彩李の父親の腕を掴もうと手を伸ばすが、人の肌に触れる感触はなく、すり抜けた。
(そうだ…映像のようなものだから触れないんだ…。)
そしてまた空間が歪み、新たな光景が広がった。