第21章 please
王族邸らしい造りの長い廊下を真っ直ぐ歩いて行くと、現世で言う幼稚園そこそこの年齢であろう、まだ髪を伸ばしていなかった頃の彩李が、ある一室の扉の前で悲しい目をして佇んでいた。
少し隙間が開いていて、廊下に明るい光が漏れていた。
中からは男性二人の話し声。
片方が敬語を使っている事から主人とその家来であるのが伺えた。
「しかし、奥様のご容態がよろしくないので…」
「もうあいつはどうなっても良い。女を産んだ途端に病床に伏す奴と結婚したのが間違いだった。」
「あ、彰束様…奥様は心の底から貴方を」
「愛があろうと無かろうと、我が彰束家の期待に背いたのは事実だ!」
「……。」
「お前も長年彰束家に仕えているんだ。我々の力が劣って来ている事ぐらい把握しているだろう。」
「…存じております。再び権力を取り戻すために、
男の子をお産みになり、現在最高権力を持つ家の娘と婚約させようと…。」
(酷い…最高権力を持つ娘って、私のこと…?)
信じられなかった。
愛した女性のはずなのに。
そして、この様子を見ている彩李はまだ物心のついていない子ども。
自分の母と父の間にできた亀裂をどう捉えるのか。
きっと頭の中には色んな思いが飛び交っているに違いない。
「また、新たな奥様をお探しになるのですか?」
「そのつもりだが…王族の血を継いでいる者とは婚約できない。我々に嫁ぐと言うのなら、必ず親族に止められるはずだ…」
「では、どうすれば…。」
「クソっ…せめて男の子を産んでいれば…」
その最後の言葉を聞き終わると空間が歪み始め、視界が安定した頃には、また知らない場所に立っていた。
目の前には先程より少し大きくなった彩李が、部屋の隅で丸まっている。