第16章 average
「ええ。頼んだわ。」
四十六室の正面玄関の、その裏にある出入口から静かに入り、誰もいない薄暗い廊下を走りながら彼女について行く。
そして立ち止まった所は、厳重なセキュリティが施された証拠品、及びあらゆる事件に関する資料がある倉庫の入口だった。
「ありがとう。」
小声で彼女にお礼を言うと、丁寧にお辞儀をして全く音を立てずに姿を消した。
(ここにどうやって入るか…。)
扉のすぐ横に付いている番号キーの前で首を捻っていた時だった。
廊下の曲がり角から足音がコツコツと聴こえてきて、私は咄嗟に天井に張り付いた。
角から現れたのは、あの青年だった。
(名前は…そうだ、島谷鶴次。…どうする?)
もし私が知っているままの彼なら、セキュリティ突破の方法を教えてくれるはずだ。
だけど何が起こるかなんてわからないし、やるなら一か八かになる。
島谷の後ろに着地し、私は艶斬を鞘から抜いた。
そして、後ろから島谷の首に刃を当てた。
「お久しぶりです。私の要求に応えてくれますか。」
「…その声は、瀬越さんですか…?」
「…。そこの扉のキーを開けてもらえますか。」
「…わかりました。僕からも少し話があります。」
艶斬を首に当てたまま扉のロックを解いてもらい、二人で中に足を踏み入れた。