第14章 sign
最上級大虚にそっと近づき、様子を窺う。
まだ霊子化していないので息はあるようだ。
「あなたに聞きたいことがあります。答えて頂けますね。」
「…ぅ、あん、た…は…」
不自由な首を上げて私を見上げる目には霞んだ光だけが宿っている。微かに動く口からは私の名前が蚊の鳴くような声で発せられた。
「…瀬越…雲雀、か…?」
(私の名前を知っている…これは何かあるわね。)
「はい。瀬越雲雀です。あなたはどこで私の名前を知りましか?」
「あんたは、虚圏じゃ…知らない奴はいないわよ…。」
私は我が耳を疑った。なぜ特に関係の無い私が虚圏で有名になっているのか。
「どうして私の名前が広く知れているの?」
「誰かが、あんたを喰えば、強くなるって言ったのよ。皆あの人の命令を待ってる。」
「あの人?誰の事言ってんねん。」
「私は知らないわよ…。」
「…なるほど。それで、本題に戻しますが…私達はこの街に虚が出入りしているとの情報を聞き、今日ここに来たのですが、本当に虚圏と現世を出入りしてたのですか?」
今度は返事がこない。
静かに事を見守っていると、突然女の口に形だけの笑みが乗った。
「ふふ…嘘に決まってるじゃない…ホント、可哀想な人ね。」
鋭い眼光で私を睨みつけた後、女は霊子となって空に吸い込まれていった。