第12章 star
それでも悔しかった。
悔しくて悔しくて…ただ自分の運命を呪った。
しかし、ここで先程青年の発言を跳ね除けた一人の裁判官がある提案をする。
「執行猶予を与えよう。監獄に入れられる前にやることを済ませなさい。」
私は驚いて声が出なかったが、心の中でこれはチャンスだと思った。執行猶予の間になるべく情報を掴んで、四十六室に提出すればこの状況を打破できる。
だがこれは後に、更に私をどん底にたたき落とす甘い考えだった。
裁判が終わり、私は自分の体がとても軽いことに気が付いた。
きっと神経が麻痺して怪我の痛みを感じなくなったと思っていたのだが、これこそが特殊リングの効果であり、地獄を見る予兆だった。
私は四十六室の廊下で、ある中年男性とのすれ違いざまに何かを呟かれ足を止めた。
「君が瀬越雲雀さんだね。息子が貴女について調べていましたよ。」
「何方様ですか。」
「私は島谷鶴と申します。息子は鶴次。今日の裁判で何か異論を唱えていたはずです。」
ああ、あの人か…私は一人だけ場の空気に矛盾していた青年を思い出した。
「息子の言う通り、貴女が今回のような事件を起こしたとは思えませんね。」
全てを悟っているように語る島谷に違和感を感じる。
この人は裁判官でも賢者の一人でもない。
なぜここにいるのか。私はその謎を問いただそうと睨みつけた。
「暇でここにいると色んなことが知れるからね。
いやぁ〜飽きないなぁ。」
私の鋭い目つきを気にもせず、島谷はそれだけ言って私から離れていった。