第11章 crown
恐らくその時のショックが大き過ぎて感覚が狂っていたのだろう。
(あれから何日経った?何がどうなったの…。報告が先?艶斬はどこ?)
総隊長か四十六室に報告した方がいいのだろうけど、あの悲劇を思い出しただけで全身から汗が吹き出てくる。
果たして私は冷静に状況説明ができるのかが問題だ。
(どうしよう…まず怪我を何とかして、それから、それから…)
頭がガンガンと熱くなって心拍数が上がる。
じわじわとこみ上げる涙の膜が震えた。
(泣いちゃダメ、泣いちゃダメ…泣いちゃ、…!)
ここで泣いたら絶対に心が折れてしまう。
それだけは嫌だった。
(私が何とかしないと!)
もしあの怪物の存在を知られては、調査しようと動いた人が犠牲になってしまう恐れがある。大切な人達を殺され、私をもここまで負傷させた奴らがまだ何処かにいるかもしれない。
そう考えると他人任せにしておけなかった。
しかし、一番大きかったのは敵討ちという感情だったのだが。
「行こう…!」
回復していない僅かな霊圧では、治癒の鬼道で傷口を塞ぐ事しかできない。出血は防げても殆ど治癒をかける前と変わらなかった。
(こんな状態で歩けないよ…でも行かなきゃ、私が…!)
キシキシと音を立てる体を引きずって、唯一あった部屋の窓から外へ出た。幸いな事に私がいたのは一階で、夜の暗い中こっそり抜け出せたようだ。
(四番隊の隊舎にいたんだ…私だけ助かったんだよね…。)
私は後ろの隊舎を振り返って唇を噛み締めた。