第11章 crown
とても静かだ。
しかしとてつもなく嫌な静けさだった。
正面玄関は特に何も無く、恐る恐る家に上がって廊下の角を曲がる。そして大広間の襖を開けた瞬間、血なまぐさい臭いが鼻腔を突いた。
「な、何…これ……。」
目の前は血の海で、いわゆるお手伝いさん達や夔竜家に居た人全員が殺されていた。床に散った赤黒い血はまだ乾いていないため、そんなに時間は経っていないのがわかる。
どこを見渡しても死体だらけの家の中を震える足で走り回った。
(生存者は…生存者はいないのっ!?)
焦る気持ちが膨らんで、無意識に流れる涙で前がだんだん見辛くなる。廊下を駆け抜けようとした時、足元の何かに引っ掛かって前のめりに倒れた。
「いっ…。」
痛む膝に手を当てながらすぐに上体を起こして見てみると、
血に染まった零番隊の羽織を身につけた、藍色の髪の死神が眼に映る。
「…灯路っ!灯路!起きて!何があったのっ!ねぇっ‼︎」
何度呼び掛けてもビクともしない。
うつ伏せの状態から仰向けにしようと試みるも、灯路の身体に触れた途端にもう彼は既に永遠の眠りについたのだと悟った。
「は、はは…っ…嘘でしょ…皆で私を驚かせようとしてるんでしょ…。」
精神が崩壊し出して自分でも何が何だか理解出来なくなる。
きっと悪い夢でも見てるんだ。
そんな都合の良い事を思っても、現実は変わらなかった。
「ほら、何か言ってよ…黙ってないでさぁ……。」
混濁する頭の隅でふと、「皆死んだんだ。」と呟いた瞬間、
私の崩壊しかけていた精神状態が決壊した。
発生していた霊圧の中に爆発した私の霊圧が混じり、空気を震わせて窓ガラスが強い振動で割れた。
ガッシャーンと何枚もの廊下の窓が連続で割れていく。
未だに状況把握ができない頭とは別に、体は勝手に動いて硝子の破片で埋め尽くされた廊下を再び走り始める。
中庭に出た時、それは姿を現した。