第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
「陰陽師に何かあったら、俺…耐えられない。我慢できない。陰陽師に何かする奴がいたら、俺、絶対、そいつを許さない」
ぎゅうぅ、と抱き締めてくる腕は強くて、ちょっと苦しいくらいで。
でも、何処か、ナギが切なそうにも見えた。
「ナギ……?」
抱き締められたままの○○が見上げると、先刻より近いナギの顔に、淡い笑顔が咲く。
更には式神とはいえ大人の身体を持った男性に抱きしめられ…しかもナギの出で立ちといえば、上半身はほぼ裸だったりする…にも関わらず、平然としていられる○○にとってのナギは、やはり『異性』というよりも『手の掛かる可愛い存在』…ということだろうか(つい先刻心臓が跳ねたのは不意打ちだったからで)。
それに、こんな風に言われてしまったら何だかもう、しょうがないなあ、なんて、○○も思ってしまったりもして。
ナギとはずっとこんな風に、ふんわりした関係でいられたら良いな…と、○○は思う。
きっとこれからもそうなんだろう…などと思う自分の愚かさを、○○は後に思い知らされることになるのだが……。
この時はまだ、何一つ夢想だにしないままの平穏が一つ、刻まれていた。
そうして、ナギが式神となってしばらくが過ぎた頃、新しい式神も増える中にあって、○○は思案した。
ナギが自分に懐いてくれるのは嬉しい。
それは純粋に嬉しくて、癒される気持ちだ。
けれど反面、獣型のナギとは違い、人型のナギは相変わらずの人見知り……。
周囲と反目しているわけではないし、他の式神と連係しての戦闘も問題なくこなしてはいる…が、やはりこのままなのは、良くない気がした。
懐いてくれるのは嬉しいが、他の式神とも、できればもっと仲良くなって欲しい。
でもこのままでは…と思い耽って、○○は、はっとした。
いつも優しくて、傍にいるだけで癒されるようで、考えてみれば…いや、みなくても、○○は自分自身がナギの時間を奪っている気がしてきた。
(そうかも……)
いつも傍にいてくれて、お互い様々な話をして、その上、ナギが自分の話を何でも嬉しそうに聞いてくれるのを良いことに、そういえば、ついうっかり、弱音やら愚痴やらを口にしたことが……。
そんなことが…確かにあった、と指折り数えて、○○はがっくり項垂れる。