第9章 狂犬?注意-双子座一族の薙刀士-
「場合によるけど、怒るところは怒って良いんだよ、ナギ。私は、絶対に怒っちゃ駄目なんて言わないから」
もし、自分のせいで彼が自分を抑制しているのだとしたら、それは良くない。
そう思う○○に、ナギは笑った。
「大丈夫。俺、怒る時はちゃんと怒ってるよ」
「そう?」
「うん。○○に何かあったら、俺、絶対許さないし、怒ってるから」
「……ナギ…………」
そこまで聞いた途端、○○は一瞬頭を抱えたくなった。
ナギが、自分の為に怒ってくれるのは、確かに嬉しいし、頼もしくすら思う。
でもナギには、ナギ自身の為にも、ちゃんと怒って欲しいのだ。
それなのに……。
微妙に伝わっていない空気に、○○が堂々巡りの気分に陥っていると、ナギはまた、大丈夫、と笑った。
「俺、別に我慢なんかしてないよ。だから大丈夫」
「本当に?」
「うん。俺は全然平気」
無理に怒りを堪えているわけじゃない。
無理なんかしていない。
そう言って、ナギは○○に、にこ、と笑いかける。
「ね、だから陰陽師は笑って?俺、それが一番嬉しいし、幸せ」
「………………」
あんまりにも真っ直ぐに、素直にそんな風に言われて、○○はもう、何も言えなくなってしまった。
と、そんな○○の目前で、ナギはふわり、と蕩けるように目を細めて。
瞬間、
「…………っ!」
目の当たりにした○○の心臓が、不覚にも一瞬跳ねる。
そんな自分に驚くやら、慌てるやら、○○が誤魔化すように目を泳がせていると、
「わっ!?」
いきなり抱き締められて、○○の声が裏返った。
「な、ななな、なぎ!?」
あわあわする○○をよそに、ナギはひどく嬉しそうに笑っていた。
「俺は大丈夫!全然、平気!だって陰陽師がいてくれる。陰陽師、俺に優しくしてくれる。だから、俺は平気」
でも…と、言葉の最後に、ナギの声が曇った。