第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-
「…………っ!?」
「呑気だな、陰陽師。俺が敵なら、とうに首が落ちているぞ」
「~~~~~っ!」
そう言われては、○○は、ぐうの音も出ない…と言いたいが、しかし。
「今は、敵じゃないでしょ」
だから、敵を前に気を抜いたわけじゃない。
負けるもんかとばかりに切り返そうとする○○の首筋に、するり、と何かが這う。
それが彼の指だと分かっても、
「~~~っ!?」
咄嗟に驚き、びく、と反応してしまう自分を、○○は止められない。
それが尚更に悔しくて振り返ろうとする…より早く。
「次は眠りに逃れても無駄だ」
「……ぇ?」
耳朶近くで潜められた声に思わず固まった○○が振り返った時には、羅刹鬼は先へと歩き出していた。
「早くしろ、帰るのだろうが」
「…わ、分かってる、よ」
そんなことは分かっている。
けれど……。
羅刹鬼の言葉が耳奥に残って、○○の鼓動が騒いで止まらない。
かと言って、敢えて先を問うこともできなくて。
何でもない振りで、○○は羅刹鬼の後を追う。
近づいてくる○○に刹那、視線を巡らせた鬼は、くつり、と誰にともなく口の端を歪めた。
「もはや…逃さぬ」
地獄鬼との戦いの直後…その疲労ゆえの眠りと理解もできたからこそ、一度は見逃した。
だが、次はない。
この帰途の後に…必ず……。
「お前を、手に入れる」
他の誰でもない。
○○を手に入れるのは自らであるという、そんな鬼の呟きも思惑も、当の少女は知る由もない。