第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-
しかも、他の式ならいざ知らず、この…鬼までも……。
妙な居心地の悪さを覚えて、羅刹鬼は、ごろり、と○○の膝の上で寝返りを打った。
「鬼などお前には厄介なだけだと、俺は忠告したはずだ」
思わず嘯いた台詞に、そうだ、と羅刹鬼は思い出した。
らしくもなく、かつても羅刹鬼はそんなことをこの娘に忠告してやったのだ。
しかも初対面の、互いに戦うという、あの時に。
なのにこの娘は鬼の力を…羅刹鬼という己の力を求め、そして今、地獄鬼の力をも手に入れた。
(地獄鬼……)
その名を思い出した瞬間、羅刹鬼の眉間が寄った。
『女の陰陽師か。はっ、楽しめそうだな?色々と』
先刻、確かに耳朶に響いた台詞に、あの瞬間もだったが、今は更に苛立ちを覚える。
(女の陰陽師……)
それが何だ、と羅刹鬼は思う。
色情狂の某鬼でもあるまいし、相手も時も選ばぬ、快楽主義とは己は違う。
そう思うのに、○○の眼差しが自分だけに注がれている、今この時の、この感覚は何か……。
このまま自分だけに惹きつけて、他を見ぬようにしてしまいたい衝動は、何か……。
その意味も理由も、永きを生きた羅刹鬼には分かっていたが、これまでのそれは所詮、その場限りの児戯のようなもの(何処かの色情鬼とは違……以下略)。
まして、○○に関する限り、羅刹鬼にそんなつもりなどなかったが。
(この娘の傍にいすぎたか?)
いや、時間など関係ない。
どれほど時を重ねようと、それで情を覚えるなどというものを鬼は持ち合わせない。
(ならば……)
児戯でも、その場凌ぎの享楽を求めているわけでもない…ならば。
(認めたくはないが……)
あるいは本当は、とうに感づいていたかもしれない自らに自嘲するように、羅刹鬼はふっ、と音もなく上体を起こす。
「らせ……っ!?」
不意に近くなった距離に驚く間もなく、○○は唇に知らない感触を覚えた。