第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-
それを逆手に取るのも卑怯…かもしれないが、まあ、己は鬼というやつだし。
それに……。
「いつまで泣いている。馬鹿者」
「ば、ばかって、だって……っ」
自分のせいで羅刹鬼の腕が…なんて考えているだろうことも、手に取るようだ。
だがしかし。
「俺は鬼だ。人間共と一緒にするな」
「え?」
問うような響きの間こそあらば、○○の眼前では、失われたはずの羅刹鬼の片腕が何事もなかったかのように再生されていく。
実のところ、再生にもそれなりの労力といいうものが伴ったりもするので、羅刹鬼的には、今すぐ再生するいわれはなかったのだが。
(まったく……)
自分に毒づきながら、羅刹鬼は○○の目の前でわざと再生して見せた。
鬼は人間ごときとは違うのだ、と改めて言い添えるのも忘れずに。
だが、この、ちょっと勝気で意地っ張りな娘は変わらない。
それどころか。
「でも、痛いのは同じでしょ!あんな…すごく痛かったよね。ごめ…っ」
「いちいち泣くな、鬱陶しい」
口走ってから、羅刹鬼の中で苦いものが広がるのは気のせい…なのか。
「とにかく泣くな。もう済んだことだ。せっかく手に入れた式を損ないたくなければ、もっと考えて戦うことを学ぶんだな」
羅刹鬼が常々こんな言い方をするほどに、『偉そう』だの何だのと、必ずと言って良いほど不平を鳴らす○○をして、今日の彼女は素直に頷いた。
「ん…分かった。でも…でもね…」
「何だ」
泣き濡れた舌足らずな声で、それでも○○が零した言葉に、羅刹鬼は驚きとも呆れともつかぬ息を吐いたのだった。
「損なうなんて言い方しないで。私にとっては、大事な仲間なんだから」
そう言ってから、ちょっと恥ずかしそうにあわあわと目を泳がせる様はまあ、いつも通りの見慣れた、何処か幼げな○○だったりしたが。
(仲間…だと?)
そういえば、式を従える立場でありながら、この娘は自らの式神に“命じる”という言動をしたことがない。
先だっての、地獄鬼との戦いでも、式神達に言っていたのは……。
『お願い!』
が主であり(他の台詞も混ざっていたようだが)、かくいう己も、この娘に主命として“命じられた”ことはない。
ということは、本気で式神と仲間やら友達やらになれるとでも思っているのか、この小娘は……。