第8章 始まりは不本意な-羅刹鬼-
暗がりから現れた地獄鬼は、その偉丈夫振りを露わにしながら姿を見せると、○○を舐めるように見下ろした。
「なるほど、女の陰陽師か。はっ、楽しめそうだな?色々と」
にぃ、と笑む地獄鬼に、○○の喉がこく、と鳴る。
○○は気丈に睨み返し、足に力を込めた。
それがまた鬼の嗜虐心を煽るなど、今の○○には知らぬことだったし、この場にあってはどうでも良いことだ。
姿を露わにした地獄鬼は、○○の目にもはっきりと見える灼熱を全身に纏っている。
人間の○○など、これ以上近づくだけで燃え解けてしまいそうだ。
しかしそうはならないのは、前に立つ羅刹鬼の結界のお陰に他ならない。
だがそれでは、守勢に立つばかりであることを、○○は痛切に感じた。
このままでは…いずれ……。
ならば、と、○○は拳を握った。
「羅刹鬼さん!」
叫ぶ○○に、羅刹鬼は僅かに目を向ける。
そこには必死そうな少女の面があって、考えていそうなことは、そこから大体汲み取れたが、羅刹鬼はそのまま無言でいた…と。
「私は大丈夫だから、羅刹鬼さんは……っ」
戦って…と、○○が皆まで告げる前に、羅刹鬼は予想通りとばかりに顔を顰めながら前を見た。
「黙っていろ!」
「けどっ、このままじゃ、羅刹鬼さんが!」
「黙れと言っている!」
叫ぶように、羅刹鬼は声を荒げた。
(苛々する)
堪らない苛立ちを、羅刹鬼は身のうちに覚えていた。
○○も、自ら結界を張る能力は有している。
だが○○の結界では、地獄鬼の放つ炎を凌ぐことはできまい。
そんなことは、○○も分かっているだろう。
それを……。
(まさか、俺を自由に戦わせる為…か……?)