第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
ならば、もう…良い頃合いだ。
一族は長の下に統率され、何の憂いもない。
それに秘術を解いたところで、未だ若いこの身をもって、この後も、彼らと共に戦い、役立つことはできる。
いずれ老い、天寿を全うする日まで……。
もはや秘術をもって自然の摂理から外れた“長老”が世にあり続けるのは、良いことではない。
長老がいることで、一族の者らは無意識の内に助言を求めようとする。
その全てが悪しきこととは思わないが、かといって、いつまでもそれでは自ら考え歩むことを怠る結果にも繋がりかねない。
事実、そう感じたことがこれまでにも幾度もあった。
長老などおらずとも、時に悩み惑ったとしても、既に自らの力で歩み、戦うことのできる彼らであるのに……。
そんな風に、漠然と抱き続けてきた思案の中で出会ったのが、思えば○○だった。
陰陽師としても未熟で幼くて、それでも前へと進み、成長していく少女……。
永い時間の中で多くの人間を見てきたが、彼女には不思議と惹きつけられる一方で、やがて長老としての己を、心静かに顧みることができた。
永く心を占め続けたのは、一族の未来、その更なる成長……。
ひたすら一族のことで占められていた己の中に、一人の少女が住み着いたのはいつからか。
「そろそろ人の生に戻っても…良かろう?」
誰にともなく問うた、その眼差しの先には、愛しい娘……。
人間の生へと戻る決断の一つは一族の為…いつまでも長老が在り続けるべきではないと思い続けたゆえの、かねてから考えていた、その結果。
だが…そこに、今はもう一つ。
芽生えた、それは……。
「お前と共に…同じ時を歩みたいのだ」
未だ目覚める気配のない少女をそっと抱き寄せて、ひよこ豆は、ゆっくりと目を閉じた……。
-終-