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陰陽の道≒式神との道

第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-


“知りたいか”などと持ちかけたのは、企図するというよりも、むしろ、半ば賭けのようでもあった。
そうして、彼女は今、こうしている。

企みめいた言の葉の罠に…この腕に少女は落ち、そして自分は、もはやこの娘を手離せない。

狡いと…狡猾だと罵られも良い。
それでも……。

もはや月のない空を見やって、ひよこ豆は嘯いた。

「“月が綺麗ですね”…か……」

そんな意訳も良いものだが……。
これから目覚めるだろう少女には、真っ直ぐに伝えたいと、ひよこ豆は思った。

情事の最中にも想いを吐露はしたが、○○の意識が戻ったなら、もう一度…いや、もっと、これからも……。

それに…と、ひよこ豆は宙へと視線を巡らせた。

「もはや…秘術も終える時かもしれぬ……」

己が老いることなく、永い時間を生きているのは、今も身の内に秘術が宿り、作用しているからだ。
だが、それは…もはや一族の中でも己しか知らぬことだが、自らの意思で解除することが可能である。

かつて…この秘術に臨んだのは、己だけではなかった。
しかし今こうして永らえているのが自らだけなのは、永い永い時間の中、耐え切れなくなった同胞が自ら術を解き、やがて人として天寿を全うしたからに他ならない……。

術を解けば、その瞬間から再び身体の中の時間が動き出す。
周囲の仲間達と同様に時を刻み、やがて老い…死を迎えるのだ。

遠い昔、秘術を施してまで生命を永らえたのは、かつての魔滅一族のほとんどが、度重なる鬼との闘いに傷つき、あるいは瀕死の状態にあったからだ。

あのままでいれば、一族が滅ぶのは時間の問題だった。
ゆえに、これを回避する為、一族の記憶と知恵と力とを未来につないでいく為に、秘術に耐えうる体力を有した、自らを含んだ若者数名が、当時の長によって選ばれた。

かつての惨状を思い返せば、あの時は確かに秘術が必要だったのだろう、とも思える。

だが、今は違う。
一族は滅亡に瀕してはいない。

全てを委ねるに足る長も既にあり、己の知恵も記憶も、伝えるべきは伝えた今、長老としての務めは終えている。
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