第1章 貪る狼-貪狼星-
その後、陰陽師として成長を重ねる○○は、やがて鬼や魔滅一族さえも己の式神としていく。
しかし、それは使役というより、仲間として遇するに等しいものだったが、その基となった貪狼星だけは。
「ろ…ぅ、もっ、ゃぁ……っ」
「逃げるな」
「にげて、な…けどっ、ぁ、ロウ……!」
「まだだ、まだ…足りない」
「ろ…、ぁっ、ぁ」
自ら式になると名乗りを上げ、○○を守るという誓いの通り、何より、○○が淋しくないように傍らにある存在……。
そんな相手の傍にある日々に、互いを慕い、睦み合うようになるのに、それほど時間はかからなかった。
先頃仲間(式)となった天狼が、そういえば笑って言っていたことを、○○はふと思い出す。
『“貪狼”とは、貪る狼、と書く。この意味が分かるかな?』
『え?』
『しかも狼…ことに、あれは一途だ。となれば、貪られるのは…誰だろうね?』
そう言いながら意味深に笑った彼の言葉の意味するところを、あの時は分からなかったけれど。
(いまは…たぶん……)
多分と言うよりは、分かりすぎるほど…な気が、する……。
「何を考えている」
「ぁ……っ、ロ……」
「もっと…俺を呼べ」
「ロ、ウ……っ」
「もっとだ、○○」
最奥を穿たれ、熱に溶かされ、上気した少女の肌は狼に貪られるまま夜の闇に舞う。
求められ、蕩かされた少女がやがて眠りに落ちるのを見守りながら、貪る狼…貪狼星は、褐色の腕に何より大切な存在を抱きしめた。
冷めやらぬ熱のままに、焦がれてやまぬ少女に唇を重ねて、ようやく室に静寂が落ちる。
その…密やかな闇の中、狼は青い瞳を細めて唸った。
「○○は…我がものだ」
そして、自らもまた○○のものであることなど、もはや告げるべくもない。
そんな腹蔵すら込めて、何処に…あるいは誰に向かって威嚇したものか、しかし、貪狼星が感じた微かな、しかし確かな気配は、くつくつと喉奥を震わせるようにして、ほどなく…その気配を消した。