第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
含まれた意図を知らない○○は僅かに困惑しつつも一瞬間を置き、それから、ゆっくりとひよこ豆の隣に立って月を見る。
見事な満月に、少女は感じたままを口にした。
「本当に……。ずっとこんな風に、見ていられたら良いのに」
それは○○の、あくまで素直な感想だ。
ひよこ豆には、すぐに分かった。
少女には、特別な意図はない。
そう、分かる。分かってしまうが……。
「ずっと…か?」
不意に、ひよこ豆の声音が変わった気がして、○○は彼を見た…と。
「~~~~っ!」
いつの間にか至近距離で彼が自分を見つめていて、○○は真っ赤になる自分を止められない。
どうしてこんなに赤くなる自分がいるのかも分からないまま、顔を隠したくてその場に座り込もうとするも。
「どうした?」
問うようにしながら手を伸べたひよこ豆に腕を取られ、○○は逃げ場を失ってしまった。
「あ、あああ、あのっ」
「どうした。顔が赤い」
「そ、そんなことっ、ないですっ!」
言いながらも、現実の○○は真逆の状況にぐるぐるしていた。
そんなことない、なんて、それこそない。
本当は顔が熱くて、どうしようもないのだ。
しかも裏返った声で何でもない振りをしたところで、説得力の欠片もない。
今はもう、ただただ居た堪れなくて、○○はここから逃げ帰りたい衝動に駆られていた。
「あ、あの、もう、帰らないと…っ」
「急く理由でも?」
「そ、それは…だって」
「老人を早く寝かしつける為…かな?」
我ながら意地悪な言い方をしている、とひよこ豆は自覚していた。