第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
でも…これ以上、こうして二人でただ穏やかに時を過ごすには、己の中にあるものが育ちすぎてしまったことを、彼は自覚せざるを得なかった。
時折…ほんのひととき過ごすばかりの相手…式神の主人にして陰陽師の少女。
分かっているのに、自分は、他の者には感じ得ぬ感情を覚えてしまった。
それでもあるいは、このまま見ぬ振りも、封じ込めてしまうという選択もあったが……。
(永らえて尚、ままならぬものだ)
もしかしたら己の想いほど、ままらぬものなのかもしれない。
拒まれるならば、それも良いのだろう。
それで、諦めもつくだろうから。
その時には落胆も、傷もつかぬとは無論言わぬし、ありえぬだろうが、それでも、わだかまるものをひたすら押し隠すには、もはや遅い。
ましてや己が秘している間に、他の男の手が○○に及んだなら……。
「…………」
ひよこ豆は束の間沈黙すると、○○をちゃんと立たせてやりながら、真っ直ぐに向き直った。
「意地の悪いことをした」
「先生?」
「だが…本当は、私は老いておらぬのだ」
「………え?」
突然の発言に、○○は違う意味で目を剥いた。
今までのどきどきが、思わず吹っ飛びそうだった。
「それって…どういう……」
目を白黒させる少女に、ひよこ豆はややバツが悪そうに肩を竦めた。
「一族の中で最も永い時間を生きていることは事実だ。だが、この見目も、身の内も全て、老いることなく時を止めている」
「止めて…る?」
○○が鸚鵡返しに問うと、ひよこ豆は静かに頷いた。
「自ら望んだわけではなかったが、そうした秘術があるのだ」
そうして己は、一族の為にと術を施され、こうして若いまま時を生きている。