第7章 大人な狡猾-ひよこ豆-
そんな少女にとって、己の式神同士が何かといがみ合う様は、天魔と戦う以前の問題なのだろう。
しかもそれを敢えて口にするということは、また何かしら、魔滅と鬼との間で衝突があったのかもしれない。
(これは後で確かめれば分かる話だが……)
一族と鬼との軋轢であれば、大豆なり、他の者なり、ひよこ豆には知るに造作のないことだったが。
問題は、そこではない。
しかし……。
良く晴れた景色を窓から見通して、ひよこ豆は不意に少女を釣りに誘った。
「○○、釣りをせぬか」
「え?」
釣りに読書、時には楽にも親しむ。
近頃のひよこ豆は、陰陽師としての生業と関わりのないことにも、敢えて○○が触れる機会を与えた(といっても、それほど多くもなかったが)。
殊に、家の傍かつ手軽に興じられるのが、釣りである。
しかも時には、その収獲がひよこ豆の食事に直結することもある。
既に幾度も興じてきたそれに、○○は解けない煩悶はとりあえず置いて、ひよこ豆に付き合うことにした。
冷静で大人で、多くを知る人物…だが、彼もまた、魔滅一族の一人なのだ。
鬼と仲良くできないか、と言われても、確かに簡単に答えられることではないだろう。
なのに訊ねてしまった自らの愚かさに気付いた○○は、これは自分で解かねばならぬ命題なのだと定めるように、釣り竿を手に、ひよこ豆の後を追った。
そうして過ごすのは、いつもの長閑なひととき……。
魚が釣れては喜び、逃げられては食事が消えたと嘆息しながら笑い合う。
ひよこ豆との時間は、○○にとって、もはや、ただ師事を受けるだけのものではなくなっていた。
怨霊は跋扈し、天魔の暗躍も方々にちらつく日々に、こんな風に穏やかに過ごすなんていけないのかもしれないけれど……。