第6章 堕ちる華-畜生鬼-
そうして…翌朝。
○○は、至っていつもの○○だった。
花火の会場では畜生鬼から貰った酒に酔って目を回し、結局、自分一人朝まで爆睡していたらしい。
それにしては奇妙なほどに身体中が重いことに○○は首を捻ったが、他に何をしたでもなし。
「寝相でも悪かったんじゃないのか?」
悪態を吐いてくる畜生鬼を、きっ、と睨んだ。
「そんなに寝相悪くありません!って、いたたた……っ」
身体が重い…というのも、もちろんだが。
(何だろ。この、変な感じ?何か…痛いし……)
その全てが激しい情交の結果であることを、○○は覚えていない。
健康上の害こそないものの、畜生鬼の盛った“毒”は静かに、しかし確かに、○○の中にある。
ほんの一口…たった一滴。
しかし…○○はそれを口にしてしまった。
身体を蕩かす効果は、正に媚薬そのもの。
しかし、それでは終わらない“毒”の効力は、身体の次には心を蕩かせる。
そしてその効力が発せられるのは、毒を受けた後に、最初に交わった相手……。
つまり、○○にとってのそれは、畜生鬼へ向かうよう、既に仕組まれていたのだ。
「しかし…効果が出るまで、存外、時を要したな」
媚薬効果によって○○の身体が蕩けるのはすぐだったが、その心までが溶け、自ら畜生鬼を求めるようになるには、予想よりも時が掛かった。
それはそれで嬲りがいがあったし、面白くもあったが……。
「ああ、そうか」
あることを思い出して、畜生鬼は合点がいったように一人佇むそこでくつくつと笑った。
あの毒を持ってしても、心まで蕩けるには個人差がある、と、そういえば聞いていたことを畜生鬼は思い出していた。
気が強かったり、強情だったり、芯が強かったり。
そういう者ほど、心まで侵食するには時間が掛かる、と……。
そう思えば、なるほど。
「あの娘は、なかなかに強情だからな」
であれば、心が蕩けて思うままになるまで、時を要したのも頷ける。
だがもはや、その強情も通らない。
一度蕩けた心に、再びの抵抗は叶わないのだ。
毒の持つ更なる効力によって、○○は自らに起きたことを翌朝には忘却する。