第1章 貪る狼-貪狼星-
人ならぬ存在であろうと予想しながら、いつしか心を開くことのできた相手。
それがロウだったから。
「どうして…黙ってたの?」
「…………」
「私が何も知らないって、馬鹿にしてたの?」
ついそんな風になじってしまいながらも、○○は、彼がそんなことをする人じゃないと分かっていた。
いつも寡黙で、ほとんど喋らない。
でも近頃は、あれこれ話すようになった自分に頷いたり、やはり口数は少ないものの、ロウも自分から話してくれるようになっていた。
それが嬉しくて、○○も更に言葉を重ねてきたのだ。
寡黙で、誠実。
そんな性情であると、○○は信じている。
でも……。
「どうして、教えてくれなかったの?」
そして、それをどうして教えるのが今なのか。
まるで別れを予感させられるようで、○○は全身が震えた。
「どうして……」
自分を抱き締めるようにする○○を、不意に、褐色の腕が引き寄せた。
「……!?」
「震えるな」
「ふ、震えてなんか…っ」
「恐ろしい時だけではない。お前は淋しい時も、こうして震える……」
「……なっ」
途端、○○は何も言えなくなった。
言い当てられたことが悔しいのか、恥ずかしいのか、自分でも分からなかったが。
(こ、こんなの…私……)
剥き出しの肌に抱き締められている、その羞恥だけで、○○はくらくらした。
すると。
「じきに、星の位置が変わる」
低く通る声が、○○の耳に滑り込む。
固まる○○に、男…貪狼星は息を一つ吐くと、思い定めたように、腕に力を込めた。
修行中の、幼い○○が空を…北斗の九つ星を見上げていた頃から○○を知っていた、と、口数の少ないはずの貪狼星は、○○に伝える為、言葉を紡いだ。
「あの頃の私を知ってるの?」
「あの頃から、お前はこうしてよく空を見上げていたからな」
空を見上げる人間なんて、大勢いる。
その中にあって何故か、○○の姿が貪狼星の目に止まったらしい。
「初めは、いつも淋しそうにしている子供が哀れに思えただけだったのだがな」
男女の別など意識もなく、ただ“子供”に目が留まった。
なのに、いつからなのか。
「俺は…お前を見ていた」