第5章 蕩ける華-地獄鬼-
昨夜は気持ちを整理するなんて、そんな間など、それこそ何処にもありはしなかったのだ。
何しろ、心も思考もかき乱されるばかりだったから。
でも…今なら。
今…だから……。
「地獄鬼……」
「ん?」
伏せていた目を、恥ずかしくても、ちゃんと上げて。
○○は地獄鬼の腕に、おずおずと自分の手を乗せた。
「……………す……」
「あ?」
聞こえねえぞ、と、大きな手が○○の髪を撫でる。
それが恥ずかしくも気持ち良くて、嬉しくて。
○○は、大きく息を吸った。
「だから」
「うん?」
何だ?と目で促されて、○○はぐ、と自分の中で力を込めた。
「地獄鬼が…………すき」
「……おい、今」
なんつった、なんて確認されても、二度言うのは、今の○○には恥ずかしすぎる。
「し、知らない!」
「おい、こら!」
「だ、だから、かも…とか」
「“かも”だ!?」
恥ずかしさのあまりの少女の天邪鬼発言に、ふざけんな、と嘯いた地獄鬼が再び覆いかぶさったのは、そのすぐ後……。
外は、もう夜明け。
けれど、この蜜夜はまだ終わりそうにない。