第5章 蕩ける華-地獄鬼-
「じ、地獄鬼…もう、戻らな…きゃ…」
「知るか。お前が悪いんだろうが」
「え……」
「何が“かも”だ」
「だ、だって!」
「それに……」
「?」
「何でもねえよ」
そんなやり取りを最後に、二人の会話らしい会話は、途切れた。
本当は…『好き』なんて、あんなことを腕の中で言われたら、抱かずにいられるわけがない。
今まで抱いてきた女共とは、わけが違う。
本気になってしまった女の好意と、その、恥ずかしそうな姿なんて見せられて、襲わずにいられる方がおかしい、と地獄鬼は思う。
だから、自分に襲われたくなかったら、せいぜい気をつけろよ、なんて、本当はちょっとからかってやろうかと思ったのだが。
地獄鬼は、敢えてそれを呑み込んだ。
一晩なんかじゃ、満足できるわけがない。
この先もずっと、何度だって抱きたくて堪らない女が見せる隙を、わざわざ教えてやることもないだろう…なんて、そんなことを、今まさに自分を翻弄している鬼が考えているなんて、○○は夢想だにする隙すら与えられないまま、またも何も考えられなくなっていった。
「俺なしじゃ、いられなくしてやる」
「ぁ…だ、めぇっ……」
もはや他の女なんてどうでも良い。
地獄鬼は、今や一人の少女だけに情欲の全てを注ぎ込む。
地獄鬼という鬼の心を、そんなつもりもないまま手に入れてしまった○○の、過ぎるほどの愛欲という名の受難(?)は、まだ始まったばかり…らしい。
-終-