第5章 蕩ける華-地獄鬼-
「おい!ったく、見せてみろ」
「これくらい平気」
「良いから見せろってんだよ!」
そういえば、地獄鬼が○○に対して、こんな風に、怒気も含め、負の感情めいたものを露わにすることは、近頃見られなくなっていた。
それは彼の中の、○○に対するある感情の変化によるものだったが、それを○○は知らない。
ともあれ、久しぶりに響いた怒気に驚きつつもおとなしくなった○○の足に、地獄鬼は、他の鬼が見ればらしくもないと笑うかもしれないほどの、いたわるような優しげな手付きで触れた。
「ここは、痛むか?」
「…っ、うん、ちょっと」
「大したことはなさそうか。…ちっ、焦らせやがって」
「え?」
「何でもねーよ」
ぶっきらぼうに言いながら、地獄鬼が○○から目をそらしたのも束の間、
「…え、じ、地獄鬼!?」
大きな、ごつごつとした地獄鬼の手が、いつの間にか○○の浴衣の裾をたくし上げていて、○○はあわあわとたじろいだ。
「ちょっと、ふざけないで…っ」
「ふざけてなんかねえ」
「……!?」
だったら猶更こんなこと、タチが悪い。
○○は逃げようとしたが。
どさっ!
「ひゃっ!?」
そのまま押し倒され、地面に縫い付けられてしまった。
「俺の勝ちだ。お前をもらうぜ」
「なっ、何言って……」
第一、そんな決め事なんて何処にもなかった。
なのに。
「勝手に決めないで!」
ぶん、と手を振り上げる、そんな○○の手を、しかし地獄鬼は難なく捕えると、
「ゃっ!?」
自分よりもずっと細くて小さな指に、ねっとりと舌を這わせた。
「敗者は勝者に従う。基本だろうが」
だからこそ、かつて少女と対して敗れた自分は式になったのだから、と、地獄鬼はにやりと笑った。