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陰陽の道≒式神との道

第3章 更衣-池袋駅運転手-


そこまで思い至った彼の脳裏をふと、車内の女性達の有り様が掠めた。

あれは…もしかしたら、自惚れかもしれないが、彼女達は少なからず自分を好意的に見てくれていた…と、そういうこと、なのだろうか。

なんて、本当に今更行き当ったことに、彼は自分に苦笑したくなった。

(だけど…僕は……)

どんな女性のどんな反応や態度にも、これまで同様、自分が変わることはない。
理由が知れたからといって、他の誰に対しても、自分は応えられない。

車内の女性さながら、どうしようもないほどに己の心が乱れてしまうのは、彼女に対してだけなのだ。
だから……。

自分に嫌気が差すほど今更の自覚を、しっかりと自らに受け止める。

今更でも。
遅まきだとしても。

胸に手を当てて、彼は深呼吸をした。

(すごく…心臓に悪いけど……)

知ったばかりの衝撃と衝動、その他諸々は少々…かなり刺激が強すぎて。
今も胸の奥が、ばくばくしているけれど。

彼女と会うと、どうして嬉しかったのか。
姿を見ただけで…その声を聞いただけで、どうして心躍ったのか。

分かってしまったその理由、気づいてしまった恋情を抑えるつもりは、彼にはなかった。
とはいえ……。

「あの、○○さん、良かったら今度の休日……」
「おらおらおらっ!とっとと行くぜぇ!」

言いかけた途端に割って入ってきたのは、それまでそこになかったはずの大きな体躯。

一体何事かと思う間もなく、それが男性だと認識するよりも早く、その男は当たり前のように○○の手を引いた。
途端、

「へ?え?ちょっと!呼んでないのに、何で来てんの!?」

むぅ、と、○○が驚きつつも、怒ったように顔を顰めるが、男は動じるどころか。

「るせーなぁ。おら、行くぞ」

見せつけるように、○○の手を引くのは己だど言わんばかりに、ずかずかと歩き出していく。

○○はといえば、そんな男に悪態を吐きつつ、ぺしぺしと目の前の背中を叩きながら後に続いた。

まあこの場合、彼女もそうするしかないのだろう。
仕方ないな、と吐息する彼は見送るばかりだったが、

「もうっ!あの、ごめんなさい。また……」

歩きながら振り返り、そう言い残してくれた○○に、彼の頬が綻んだ。
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