• テキストサイズ

陰陽の道≒式神との道

第3章 更衣-池袋駅運転手-


「はい。また…必ず……」

その時こそは、誰にも邪魔されないように頑張らなくては。

自分に喝を入れるように、彼は気持ちを新たにする。

しかし一方で、遠ざかり、やがて見えなくなっていく姿を見送って、それにしても…と、微かに眉間を寄せた。

(あれは、鬼…だな……)

○○が鬼をも式神としている、とは、以前から知っていたが。
なるほど、そういえば確かに角があった。
つまりはあれがそうらしいが、何とも絶妙に邪魔をしてくれたものだ。

職務中はきびきびと、そして笑顔も絶やさずに。
日常、そんな出来過ぎな池袋駅運転手はしかしこの日、○○を連れ去っていく鬼を見遣りながら、脇に下ろした拳に、ぐっ、と力を込めた。

「次は…必ず……」

『また』と言ってくれた彼女。
その『また』の機会を、今度こそ無駄にしない為に。

(今度こそ、この気持ちを…あの人に……)

彼が定めた想いは…果たして……。


「○○さん。貴女が好きです!僕と、お付き合いしていただけませんか」


人目も多い駅構内にあって、彼の投じた、勘違いしようもないほどの直球は、この後しばらく、池袋駅での語り草となったという(ついでに上司からもお説教を食らったが)。

そうして…そんな彼の渾身の告白の行方や如何に、といえば。

勤勉実直、穏やかさを湛えた面が時に、へにゃり、と至極幸せそうに緩む(というより崩れる)ことから、容易に推し量れるというものだろう。

「よぉ、今日はいつにも増して調子が良さそうじゃないか」
「ええ。実はこれから、彼女と待ち合わせをしているんですが……」
「あ~~~……(しまった!)」

うっかり話しかけた挙句、そのまま惚気を聞かされる羽目に陥るという被害者が、その後続出したとか、しないとか……。



-終-
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp