第3章 更衣-池袋駅運転手-
しかも、そうでなくても目のやり場に困っていた襟元…いや胸元が…なんて、思わず考えてしまった日には……。
(何を考えているんだ!)
何処かの某同僚じゃあるまいし、と自分を罵っても、どうしたところで、彼もまた、普通の健全男子だったというだけのこと…なのだが。
成人男子としては、一応それなりに経験がないとは言わないが…でも今までは、こんな風にひどく動揺してしまうとか、心臓が跳ね上がっておかしくなりそうとか、こんなことはほとんどなかったから。
「ぅわっ!?」
仰け反るように飛び退って…そして、今更だが、彼は自覚する。
嫌というほど、しかも唐突に突きつけられた、それは知らず知らずの自覚症状。
(びっくり…した……)
自分で自分の反応に、本当に驚いた。
しかしそんな彼の胸中…というより、考えていることなんて何も知らない○○の表情は、まだ何処か心配そうで。
「あ、その、何でもないですから」
だから彼が取って付けたようにそんな風に言ったところで、○○の曇り顔は完全に晴れなくて、何だか申し訳ない気持ちになる…が。
かと言って、彼女を正視などしようものなら、当然目に入ってしまうのは、○○の姿だ。
それに、よく見てみれば…いや、考えてみれば。
その出で立ちたるや、ただ半袖になっただけではなく、服の生地も薄くなっていて(自分の制服も同様だったりするがそこに思いは至らないらしい)、何と言うか…身体の線が……。
(じゃなくてっ!)
浮かぶ思考に、彼はいっそ頭を抱えたかったが、でも事実だ。
たかが衣装一つ、されど……。
好意を持つ相手の変化を、こんなにも意識してしまう。
そう…自分は彼女を好いている。
今までも、○○を好意的に思ってはいた。
でもそれは、あくまで知己としてのものだと思っていた。
だが…違ったのだ。