第13章 遠い約束-氷獣鬼-
世には人間以外にも、数多の種が存在する。
異種での関わりも…あるいは交わりもある、とも聞いたことがある。
けれど、それが我が身も…とは。
まして、獣の風体をした……。
(氷獣鬼のお嫁さん…なんて……)
思いもしなかったし、考えたこともなかった(今の○○にとって、もはや彼は『獣』ではないが)。
何より、それを受け入れる自分なんて、想像もできなかった。
誓約の名の元に抱かれても(始めは殺されると思ったし)、よもや自分が彼を…なんて、ありえないと思っていた。
記憶を取り戻すと同時に思い出した彼への好意も、いわゆる恋心とは違うものだと思った。
けれど…傍にいて、彼という存在を知るほどに、それはいつしか恋慕へと変わってしまった。
約束だからじゃない、誓約でも、言霊のせいでもない。
優しい彼だからこそ……。
「だいすき……」
「○○…っ、我を、煽る…な」
「ぇ?ゃっ!?ぁぁ…んっ」
○○の中の彼が、不意に猛りを増す。
○○は堪らずにしがみついた。
「ぁ…っ、ぁ…ぅっ」
「辛いか?」
「へ…き、はなさ、な…で…?」
「離しはせぬ」
獣なんかじゃない。
姿は確かに獣かもしれないけれど……。
(誰よりも…優しい人……)
「は…ぁっ…っ」
彼から与えられる悦楽に意識を侵食されながら、○○はゆっくりと目を閉じた。
氷獣鬼の寿命は長い。
初めて抱かれたあの日、これは儀式だと言った言葉通り、今や○○は彼と同じ生命を分かち持つ。
(今は…ここで暮らしてるけど)
陰陽師として過ごす自分を、彼は見守ってくれている。
けれど…いつか……。
「あなたの故郷に、連れていって……」
意識が蕩けて言えなくなってしまう前に、○○は幸せそうに彼の鼻先に口づけた。
「無論だ」
それは二人が交わす、新たな幸せの約束……。
「うん…っ、ぁ、ぁっ」
「愛い妻よ……」
紛うことなく恋人となった二人の、蕩けるような蜜夜はまだ、終わらない……。