• テキストサイズ

陰陽の道≒式神との道

第3章 更衣-池袋駅運転手-


だが、他の利用客達に遮られて、彼の目に○○の姿はなかなかはっきりとは捉えられない。
しかし、その目が少女を見失うことはなかった。

それもまた何故なのかは、今の彼にはまだ、やはり分からなかったが……。

ふとしたことで顔見知りとなった彼女が陰陽師であることを知っていた彼は、その傍らに式神の姿がないことに少し驚きながら、ようやく人波を渡り終えて。

その後ろ姿を目前に捉えながら、息を整えた。

「こんにちは、○○さん。今日は式神は一緒では……っ」

告げかけた言葉を、しかし、彼は最後まで音にできなかった。

「あ、こんにちは!」

それまで背を向けていた○○は、ちゃんと声に気付いて振り返ってくれたというのに。

その上、今日はいつもより電車が混雑していたから、一人でここまで来たのだ、とか。
でも後で召喚できるから大丈夫、とか、そんな風に応じてくれているというのに…だ。

「? どうかしましたか?」

不思議そうに自分を見上げる○○の出で立ちは、当たり前だが、この季節に合わせた洋装…つまり……。

(うわ……っ)

以前までは決して目にすることのなかった、少女の華奢な二の腕。
それにブラウスの襟も、冬の頃に比べて開き具合がちょっと大きいような気がする…ではなくて、確実に大きい。

しかも、今日は髪を纏めているせいか、うなじがしっかり見えてしまったりもして……。

「~~~~~っ!」

顔だけでなく身体全体が、夏のせいではない熱さに見舞われた彼は、咄嗟に顔を俯けた。
それは、こんな自分の顔を見られたくなかったから…だったが、これが間違いだった。

常であれば、○○は自分より背の高い彼を見上げる体勢である…のだが、その彼が俯いてしまった為に、ちゃんと目を合わせようとすれば…しかも急に俯いてしまったことに驚き、心配になった○○が取った行動は当然、

「あの、大丈夫ですか?」

勤勉な彼の身を労わるように、伏せられた彼を覗き込む、というもので。

それは別段特殊でも不思議でも何でもない、至極一般的かつ普通の挙動に違いないはずだった…が、今の彼にとって、それは刺激が強すぎた。

彼を覗き込もうとすれば、当たり前だが互いの距離…というか、顔が、いつもより近づいてしまうわけで。
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp