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陰陽の道≒式神との道

第13章 遠い約束-氷獣鬼-


「震えておるな」
「こ、これ、はっ」

気丈に言い返す○○は、獣への怯えとは異なる、純粋な寒さに身を震わせた。

(なに…、これ、寒い?)

ついさっきまで、ここは寒くなどなかった。
それにこれは、ただの寒さというより、獣の周囲を冷気が渦巻いているのが○○の目にも分かった。

そんな○○の変化に気付いたのか、微かにだが、目の前の獣が笑んだ…ように見えた。

「これは我が力がゆえだ。あの折も、我が通り掛かったがゆえに、うぬはひどく凍えていた」
「あの…とき…?」

無意識に、その言葉が○○の口を突く。
全てを思い出したわけではない。
ない…けれど……。
あるいは、だからこそ、かもしれない

それをどう取ったのか、獣は、今度ははっきりと分かるように、笑うように口を開いた。

「ほう?覚えておったか。ふむ。それは重畳」

頷いた獣は、○○に手…と思われる動きをする前足を伸べた。

「約した通り、貰い受けに参った」
「ぇっ……」

(貰い受ける……?)

○○は覚えがなかったが、『何を』とは、問えなかった。
何故なら、瞬時に浮かんだのが『己の生命』だったからだ。

(私を、殺しにきたってこと?)

あの時は子供だったから助けたものの、大人になったら…と、つまり……。

(そういう、こと?)

逃げなきゃ、と、○○の頭は咄嗟に考える。
なのに何故か、身体が動かなかった。

寒さのせいではない、これは……。

「逃れることは叶わぬ。うぬは我に約した。言霊の誓約は違えられぬ」

言霊…とは、言葉そのものに宿る力だ。
日常、何気なく口にするそれすら言霊となり得るが、誓約となれば、その力は更に大きなものとなる。
だから…もう、○○に逃げる術はない。

(殺される……)

こんなところで、思わぬ形で……。
誓約を交わした相手から逃れる術はなく、○○の陰陽もまた、誓約の前には無力でしかなかった。
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